古橋ゼミ
ゼミでは受講者卒論テーマに関する文献を取り扱いながら、研究の方法と論文の書き方について指導します。本年度は受講生のテーマや必要性に応じて柔軟に進めてゆく予定です。私の指導範囲はキリスト教をはじめ、アメリカ文化研究、生命の倫理、現代女性問題、人間学、宗教などです。演習では、キリスト教と日本との出会いについて取りあつかっています。
日本キリスト教文学会月例会での発表の概要と内容の次第を以下に紹介いたします。
日本キリスト教文学会 第400回月例会
日時 2010年 6月12日(土) 14:00-16:00
場所 上智大学
題目 「インカルチュレーションと遠藤周作――神学と文学との相互作用とその可能性」
概要:
1970年代から教会の営み、宣教と司牧、また神学において注目を浴びるようになったのは、福音と諸文化との関係をめぐるインカルチュレーションという課題である。この「福音と文化との継続的な対話」は教会がこれまでその二元論やグノーシス主義的傾向、単一文化主義的世界観によって世界と乖離を生み出し、従来の神学が機能しなくなってきた背景において要請されてきた。アジア特別シノドスでも取り上げられた通り、教会の現在と未来はこの神学的課題への取り組みにかかっている。遠藤周作はイエスの物語、二千年前のパレスチナでの物語を、現代の日本に生きる主人公を通して、私たちの物語とすべく福音の再解釈をおこなう。この試みは神を「新宿や渋谷のようなもっともありふれた日本的風景のなかに見つける」ことであった。「日本人の心にあう基督教を考えたい」という遠藤のテーマは、西洋キリスト教たる「洋服」を「和服」化しようとする試みであり、キリスト教が日本の風土にも合うあり方を探ることであった。この文学的実践はそれが「福音と文化との対話」である限り、インカルチュレーションの営みとなる。
次第:
はじめに――近年のキリスト教と神学の動き
Ⅰ.インカルチュレーション(福音の文化的受肉)
A. 経緯
B. アジア特別シノドス(1998年)
C. 定義
D. 要素と側面
E. 要点――教会にとって何か?
F. 困難
G. 課題と可能性
Ⅱ.遠藤周作のインカルチュレーション
A. 遠藤の使命――日本におけるキリスト教のあり方を求めて
B. 遠藤によるインカルチュレーションの試み
C. 遠藤文学作品に見るインカルチュレーションの実践
1.『黄色い人』1955年
2.『わたしが・棄てた・女』 1963/64年
3.『沈黙』 1966年
4.『死海のほとり』 1973年
5.『深い河』 1993年
おわりに
過去の研究と現在の担当授業との関係で、文化の領域ではアメリカ文化研究と英米文学に携わっています。具体的な研究としては、遠藤周作とインカルチュレーション、ウォーカー・パーシーの作家論、作品論が挙げられます。授業では、アメリカ文化研究以外にも、生命倫理、現代社会問題、人間学なども担当しています。
グローバリゼーションの時代にあっては、文化というテーマがハイライトされ、その研究がますます盛んになってきています。神学領域との関係においても、文化の研究は同様に重要視されてきています。教会は第二ヴァティカン公会議をとおして人間的な営み、人文諸科学や文化に対してより肯定的な見方をとるようになりました。神の「創造」とその「受肉」において示されたように、救いの歴史が展開し、神の愛の対象にして、神の救いの業が実現される場である世界、人間の地平にして生の営みの場たる文化が、肯定的に捉えられるようになりました。インカルチュレーション神学の課題は福音をいかに文化と対話させることができるかということです。また、文化そのものの研究がこのインカルチュレーションにいかに活かせるのかが別の課題となります。
神学の営みについて研究しています。神学とは神の自己開示たる啓示を伝統に忠実でありながらも、時代の状況に意味と妥当性とをもつ仕方で理解してゆく解釈の営みです。その結果として信仰共同体が活性化されることを目指すものでもあります。
神学研究のなかでも主に二つの分野で興味をもって研究してきました。インカルチュレーション神学と神学的方法論とです。
第一にインカルチュレーション神学は、文脈化神学や地域神学の構築と密接に関係しています。インカルチュレーション(福音の文化的受肉)とは福音と文化との対話という神学的課題です。福音宣教側の文化が絶対化・普遍化されるとき、また福音の内容と文化とに区別がなされないとき、あるいはキリスト教という宗教と福音とを混同するとき、そのとき信仰共同体たる教会はインカルチュレーションの課題をもって問い直しを受けることになります。福音はそれぞれの時代と文化にふさわしい方法と表現で伝えられ、文化に根づきそこで実をむすんでゆくのでなければ、キリスト教も文化に根をはった宗教の社会的実体として生きてゆくことはむずかしくなります。
第二に神学の方法論ですが、これは神学の営みそのものについての省察です。これは啓示、信仰、シンボル、聖書、解釈、教会などの要素とそれらの関係についての省察からなりたちます。啓示の解釈である神学、あるいは信仰の省察である神学の営みの使命や規準、条件や方針などを問う学問領域です。神学の主体、神学の聴衆、神学における緊張関係をも問うてゆきます。
以上の二点以外にも、神学と文化、宗教と文化、教会論、第二ヴァティカン公会議、苦しみの神学についても興味をもって研究に携わってきました。