スリリングな映画を見ながら手に汗握り、緊張した場面では深呼吸で呼吸を整えリラックスを図るように、わたしたちの「からだ」の働きは、「こころ」の働きと相互に密接な関係にあります。
そんな「こころ」と「からだ」の不思議を実験から探ります。
自己紹介などで心理学を学んでいます、というとたいていは「相手の考えていることがわかるのでは」とか「カウンセラーになりたいんですね」などと訊かれることがしばしばです。おそらく心理学に対する一般的な印象を表しているのでしょう。しかし実際には相手の考えていることが全てわかる訳ではなく、また心理学を学んだ人全てがカウンセラーになる訳でもありません。ここでは、心理学に対する一般的な誤解を解き、大学で学ぶ心理学が仕事にどう結びついていくのかを紹介しましょう。
〔こころの仕組みを理解する〕
大学で学ぶ心理学の特徴の一つとして、人間の行動やこころの仕組みを理解することが挙げられます。私たちの普段の行動は、全てこころの自動的な働きに影響されている、といっても過言ではありません。例えば、信号のある道路を横断するとき、赤信号が青に変わるのをきちんと待つ人もいれば、信号が変わらぬうちに飛び出してしまう人もいるでしょう。こうした性格の違いが仕事のやり方と関わることも考えられるでしょう。また、初対面の人からどのような印象を受けるのか、感じ良く思われるにはどうすればよいか、ということもこころの働きの一つです。仕事の手順を覚えなければならないとき、どうすれば記憶しやすくできるのか、といった問題も挙げられます。このように日常の中で心理学と関わる問題は、挙げればきりがありません。こころの仕組みを理解することは、さまざまな問題に対処する手がかりを与えてくれるでしょう。
〔調査やデータ分析の体験〕
しかし、知識だけが重要なのではありません。机上の知識はいつも現実に役立つわけではなく、常に実際はどうなのか、ということを調査し分析する必要があります。実験や調査(アンケート)を通してデータを集め、得られたデータをコンピュータで分析する、こういった一連の作業は心理学を学ぶ特徴のもう一つとなっています。企業活動の中でも、マーケティングをとおして企画を立案し、商品やサービスに対する顧客の満足度をまた調査する、など様々な場面で調査(アンケート)が必要となるでしょう。調査の実施とデータの分析を、体験を通して学んでいることは就職後に大きく役立つはずです(アンケートを作ることは、簡単にはいかないものです。質問の仕方によって回答が変わってしまうのですから)。
心理学には文系に強い学生が多いのですが、実験・調査やデータ分析、レポート作成といった理系的な作業をすることで、学生に幅広い視野を持ってもらえることを期待しています。
「あなたは、実は○○さんのことが好きですね?」「い、、いいえ・・・」そう答えたとしても、身体に装着されたセンサーに示される反応からはウソをついていることがバレバレだった・・・
テレビのバラエティ番組でも取り上げられるウソ発見器ですが、ああいった器械で本当にウソをついていることが判るのでしょうか?
私たちのこころと身体は密接な関係があり、緊張した場面やいつもと違う状況に置かれると、その場をうまく切り抜けようとするための反応が生じます。その反応は危急反応(闘争−逃走反応)といわれ、心臓をドキドキさせたり、呼吸を速くしたり、汗をかいたり、といった反応が含まれます。これらの反応はウソをついた時ばかりでなく、緊張していたり、感情的になる質問をされた時にも生じるのです。つまり、テレビで行なわれているウソ発見器の実演では、本当にウソをついたことで反応しているのかが判らないのです。
では、ウソ発見は不可能なのでしょうか?警察で行なわれている虚偽検出検査(器械や測定の仕組みはテレビ等で行なわれているものとほぼ同じです)では、質問の仕方を工夫することでその問題を解決しています。犯人かどうかを見分けるために、真犯人しか知り得ない事実を質問した時の反応と、その他の類似した質問への反応を比較する緻密な作業が行われています。この質問作成や反応を見分ける作業には、心理学的な知識が活用されています。
こんなところにも心理学が活躍しているのです。
「春眠、暁を覚えず」というように、春先は陽気もおだやかで過ごしやすいものですが、だんだんと暑くなってくると寝苦しく、なかなか寝付けない夜も増えてくるのではないでしょうか。そうでなくとも、五月病と言われるように環境の変化がストレスとなって、眠りを妨げる原因ともなりやすい時期なのです。
「寝付けない」などの不眠を中心とする睡眠について問題を訴える例が増えていると聞きます。これらは心理的なストレスが原因であったり、生活リズムの乱れであったりと様々な要因が考えられます。しかし、睡眠のメカニズムを理解して、うまく生活していけば睡眠の問題を低減することも可能です。
例えば、寝付きの悪さの原因の1つに、「早く寝なければ」という思い込みや不安があります。そう思うことで緊張が増し、余計に眠り難くなってしまうのです。しかし、人間は数日間、全く寝なくても大きな問題が起きる訳ではありません。また、そうした人の脳波(脳の活動状態を示すもので、寝ているか起きているかの判定にも使われる)を測定してみると、実は脳の活動としては睡眠状態を示していることが多いのです。主観的には眠れていなくても、生理的には睡眠がとれていたり、マイクロ・スリープという超短時間の眠り(本人はほとんど気付きません)で睡眠不足を補っていたりしますから、まずは眠れなくてもあまり思い詰めないよう、気楽に考えることが大事です。
また、睡眠を上手にとる秘訣としては、起床時間を一定にすることが挙げられます。これは体内時計のメカニズムと関係しているのですが、詳しくは9月の公開講座(9/5)で・・・
生理心理学というのは、こころの働きを調べる心理学と、身体の構造や働きを調べる生理学が融合した、心理学の領域の1つです。この生理心理学には2つのアプローチの仕方があります。1つは心の働きを支えている脳の領域はどこなのか、ということを探るアプローチで、細かくは生理学的心理学(Physiological Psychology)とか神経心理学(Neuropsychology)と呼ばれています。たとえば人間の記憶に重要な役割を占めているのは海馬(hippocampus)という部分である、等を明らかにしてきた分野です。
もう1つのアプローチは、こころの変化によってどのような生理的変化が生じるのか、を測定するアプローチで、これは心理生理学(精神生理学ともいう:Psychophysiology)と呼ばれます。そのおもな応用例として挙げられるのが警察等で行なわれている嘘発見器(ポリグラフ検査:Polygraph test)等です。